映画「余命」-22009/02/20 00:23

映画「余命」について、
製作委員会が「ピンクリボン運動の精神に賛同しています」と掲げているのは
どういう意味で賛同しているのか
気になって原作を読み、映画を観てきましたという話の続きです。

まず原作で、子どもを産んだ病院のシスターに
がんの治療を受けるべきではないかと言われた際、ヒロイン滴が言った台詞
「入退院を繰り返し、抗がん剤で毎日嘔吐するのは、今はやめておきたいな。
 せっかくこの子を産めたんです」は、
もっとプロの医者っぽい台詞に変えられていました。
詳しくは覚えていませんが
「やめておきたいな」というような投げやりとも取れる言い方ではなく
「放射線治療や抗がん剤治療で時間をとられることは避けたいと思っています」
みたいな言い方でした。

そして、がんの再発に気づいた同僚医師が言った台詞
「他に方法だってあった。妊娠を継続するならするで、
 それだってできる治療はあった。
 このままでは、死なせませんから。友人として、私が許さない」は、
カットされていました。

代わりに何度も出てきた言葉が
 「炎症性乳がん」
です。
帰宅後、原作をあらためてめくってみましたが
確か原作では出てきていない言葉です(間違っていたらごめんなさい)。

「炎症性乳がん」……。
胸の皮膚に炎症が出るタイプの乳がんとして
耳にしたことはあるように思いましたが
それがどういうものなのか、どれほど悪性度が高く、どういう治療があるのか
まったく知識がありませんでしたし
映画でも解説めいた台詞はありませんでした。

調べてみたら
がんサポート情報センターのサイトに
「渡辺亨チームが医療サポートする:炎症性乳がん編」という記事がありました。
その解説によると、炎症性乳がんとは、次のようなものだそうです。

炎症性乳がんは乳がんの1つですが、普通の乳がんのようにしこりははっきりせず、乳房の皮膚が赤く、熱を持って腫れ、むくみをともなって、ちょうど、見かけが乳腺炎のようにみえるため、このように呼ばれます。

炎症性乳がんを顕微鏡でみると、乳房皮膚のリンパ管に、がん細胞が広く入り込んで行くように増殖するため、リンパ管が詰まり、リンパ液の流れがとめられうっ滞を起こしてでき、「炎症の4大特徴」を伴うものです。

ただし、通常の乳がんとして腫瘤を作るように発症したものが、症状の進行に伴ってがんのリンパ管内への浸襲が進み、炎症性乳がんと似たような病態を示すこともあります。広い意味ではこうしたタイプも炎症性乳がんと呼びます。

乳がんのなかで発生頻度は1~4パーセントとされています。炎症性乳がんは、原発腫瘍の大きさや場所からの分類では最も進行したT4dで表され、ステージ分類でいうと3B期、3C期(鎖骨上リンパ節転移を伴う)、4期(遠隔臓器に転移を伴う)の可能性があります。

炎症性乳がんは、がん自体の悪性度が高く、また、リンパ管に浸潤しやすい性質を持つため、遠隔転移を伴う可能性が非常に高いと考えられています。従来の治療方法では、予後が極めて悪く、5年生存率は約30パーセントという報告があります。

つまり、乳房皮膚のリンパ管にすでに浸襲しているがゆえに
炎症が起きたような状態になるわけで
発見された時点でもう全身に転移している可能性がきわめて高い
ということになるようです。

治療方法については、上記のリンク先に実例も紹介されていますが
次のような治療が一般的だそうです。

炎症性乳がんは、すでにがんが全身に飛び散っている可能性が高く、また、乳房も切除範囲を正しく決定することが困難なため、手術を最初に行うことはありません。薬物療法を行い、引き続き放射線照射を行う場合が一般的です。

薬物療法は、抗がん剤治療を中心に行いますが、HER2タンパクが陽性の場合には、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)という分子標的薬を使用します。ただし、局所の症状を和らげるために、手術や放射線治療を行う場合もあります。

いろいろ解説を見る限り、
原作に比べて、「余命は長くは見込めない」形に絞り込まれたような感があります。
そして、滴も外科医としてそのあたりのことは充分承知していたという作りに
修正されたようです。
当然といえば当然の軌道修正だと思います。
クレームがつくのは避けたいところでしょうし。
ただ、炎症性乳がんといってもいろいろなケースがあり
治療が奏功することも多々あることを、みなさんお忘れなく。

な~んて。
わたしは医療従事者でもなんでもないので
これまで、あまり専門的な部分には立ち入らないようにしてきたつもりです。
が、今回は長々と引用までして「炎症性乳がん」について書いてしまいました。
なぜかというと、上記のような医学的解説が映画の中には一切なかったからです。
パンフレットも購入しましたが、そこにも解説はありません。
「炎症性乳がん」はもちろん、乳がんについても、マンモ検診についても
さらに言えばピンクリボンのマークすら、パンフにはありませんでした。
映画のほうにはクレジットのあとにピンクリボンのマークがあったんですがね。
パンフの巻末には、映画のクレジット内容が印刷されていて
医学監修を依頼した著名な先生方のお名前がならんでいますが
映画の監修をお願いしただけで終わり
パンフに乳がんについて書こうといった考えは浮かばなかったか、却下されたようです。

でも、映画「余命」はピンクリボン運動の精神に賛同し
興行収入の一部を日本対がん協会の「ほほえみ基金」に寄付する予定だそうです。
主題歌をうたったtwenty 4-7も、売上金の一部を寄付することにしたとか。
(関連記事は◆こちら◆

う~ん。
製作委員会が、何をもってピンクリボン運動に賛同しているのか
やはりわたしにはよく分かりません。
乳がんを扱っていて、寄付をすれば、宣伝に使っていいということ?
そう感じてしまうのは、ひねくれているんでしょうか。
映画を観た人が、妊娠中のがん発見や、炎症性乳がんに対して
偏見をもつのではないかという恐れは抱かなかったのでしょうか。
「ほほえみ基金」に寄付するということは
炎症性乳がんの治療法の研究・開発というより
早期発見のための検診事業の支援が主になるような気がするのですが
どうなんでしょう。
せめて「一部」とはどれぐらいなのか、
寄付の報告はきちっと出してくれるといいのですが。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

製作委員会さん、もしかして宣伝戦略をあれこれ迷われたんでしょうか。
つまり、ピンクリボン=乳がん路線で売り込むか、出産=母と子の物語で行くか。
2月1日には
「映画『余命』公開記念 赤ちゃんへのラブレター ~まだ見ぬあなたへ~」
と称して掲示板を開設されています。
「母になるあなたから、生まれてくる赤ちゃんへのメッセージを、
以下のフォームから投稿してください。
あなたの愛が、日本中の新米ママを勇気づけます」だそうです。

あ、そうそう、その路線で言えば。
先日がんナビに非常にタイムリーな記事が出ていました。
「妊娠中と産後1年間の乳がんでも早期診断と早期の治療開始が大切」という記事です。
おとといの記事にコメントをくださった方のブログにも
「妊娠中の乳がん治療:妊娠継続しつつ積極的治療という選択肢も」
というがんナビの関連記事が紹介されていました。

また、最近知ったのですが、アメリカや海外には
がんを患った妊婦を支えようという団体もあるんですね。
たとえば、“Hope for two – the pregnant with cancer network”
(2人のための希望-がんのある妊婦のネットワーク)では、
妊娠中にがんを告知された女性に、情報とサポートと希望を与える活動をしているそうです。
赤ちゃんを無事に産んで、治療もして元気に過ごしている人が大勢いて
そういう人たちが「先輩」としてアドバイザーになり、支えてくれるとか。

妊娠中にがんが分かったら……。
想像しただけでも大変ですが
こうした情報を見ていると絶望することはないと思えます。
わたしの知人にも、妊娠中に乳がんが見つかり
無事に赤ちゃんを産んだ人がいます。
そのあたりの出産とがんをめぐる情報も
映画にもパンフレットにも一切出てきません。

役者さんの演技はなかなかすばらしかったと思いますし
奄美大島もきれいだったし、滴たちの家もレトロな雰囲気でステキでしたが
ピンクリボンをかかげた映画としては、わたしは「なんだかな」が結論でした。

コメント

_ きょんた ― 2009/02/20 09:04

うーん。。。
ピンクリボン運動そのものの定義があいまいだからでしょうか。
それにしても、うーん。。。。。わたしもたぶん、おんなじ印象を受ける気がします。(映画も未見、原作も未読なので断言はできませんが)

_ hikari ― 2009/02/20 15:26

コメント承認ありがとうございます。

ピンクリボンについてはグラマラスの一件からこのブログも拝見させていただいています (^^

映画ではそんな風にカットされていたのですね。

>わたしの知人にも、妊娠中に乳がんが見つかり
>無事に赤ちゃんを産んだ人がいます。
>そのあたりの出産とがんをめぐる情報も
>映画にもパンフレットにも一切出てきません。

乳癌の早期発見や、よりよい治療、病と前向きに付き合っていこう、というメッセージ性があったなら「ピンクリボン」もより意義のあるものになったのではないでしょうか。

(あくまでも原作は小説であって、道徳的、これが正しいと示すものではないですけどね)

この「余命」という映画をどんな動機で鑑賞しに行っているのかはそれぞれあるかと思います。
中にはやはり"乳がん"というキーワードで見にいらっしゃる方もいるかもしれませんね。
(NPOピンクリボンでの上映会をしているところもあるようですから)。

3/29には東京で「ピンクリボン・ウォーク」ですね。
機会があったら行ってみようかと思います。

_ てらだ ― 2009/02/20 18:39

きょんたさん、コメントありがとうございます。
> ピンクリボン運動そのものの定義があいまい
そうですよね。定義なんてあってないようなものだし。
なのに「ピンクリボン運動の精神に賛同し」と言われても、何にどう賛同しているのやら、さっぱりチンプンカンプンでも当然かもしれません。なんとなくイイコトしているという気分だけ伝わってくるよな……。しっかし、そんなんでええんでしょか。

_ てらだ ― 2009/02/20 18:46

hikariさん
> (あくまでも原作は小説であって、道徳的、これが正しいと示すものではないですけどね)

そう! そこですよね。原作は、考えようによってはある意味異端児的な、強さと弱さの入り混じった一人の女性をえがいていて、何が正しいとか間違ってるとか主張しようなどという意図はないんだと思います。だけど「ピンクリボン」というのは、いろんな定義があるとはいえ、「乳がんという病気で悲しむ人をなくそう!」という運動のはずで、その目的を達成するためには「こうあるべき、こうするべき」という話がどうしたってついてまわるハズ。なのにそこをムシしてピンクリボンにからめるから、宣伝に利用しているようにしか見えないんだと思います。

_ りこ ― 2009/02/21 11:04

映画好きで、週1くらいのペースで観ています。
この映画、乳がん経験者としては、最初、どちらかと言えば観たくなかったのですが、
松雪さんの演技が観たくなって、観に行きました。

この映画が始まる1か月くらい前から、映画館の女性トイレの個室一つ一つに、自己検診のしかたとか、症状が書かれた絵が、貼ってありました。
これがピンクリボンにからめたって事なのかな?

グラマラスの件から、このブログを覗かせていただくようになりましたが、
正直、ピンクリボンの定義とか、私にはまだよくわかりません。ごめんなさい。
でも、今が、ピンクリボンがいい方向に成長している途中だといいな!と思います。

この映画、賛否両論を受けることを考えた上で作られた。とも聞きました。
そういう意味では、投げかけた映画だと思いました。


余談ですが、同僚の医師の「友人として…」て言うセリフ、私はあったような気がしたのですが、違う言い回しだったのかな?

_ てらだ ― 2009/02/21 20:41

りこさん
コメント、ありがとうございます。
トイレに貼ってあったという絵、宣伝の一環として「トイレジャック」をやるという話を製作委員会のブログで見ましたが、実物は目にする機会がありませんでした。宣伝ポスターというだけでなく、乳がんの啓発活動を意識した内容だったのであれば、「良かった」と言うべきなのかもしれませんが、そうした情報をパンフに載せるなどして、映画を「観た」人にも提供したほうが良かったんではないかと期待するのは、注文のつけすぎなのか、やはりわたしがひねくれているのか、「なんだかなぁ」の思いがくすぶってしまうのが正直なところです。
「友人として…」のところ、残っていましたっけ?
少なくとも、わたしが一番ひっかかった部分、「他に方法だってあった。妊娠を継続するならするで、それだってできる治療はあった」はなくなっていたと思うのですが……。
万一記憶違いだったらごめんなさい。

_ 胡桃 ― 2009/02/21 21:17

泣く泣く出産より自分のガンの治療を優先させるというパターンを選んだ人もいます。
そういう意味ではピンクリボンを掲げるのは、なんだかな~と思っている一人です。
違う意味でこの映画を観て涙している人もいるのです。
ピンクリボンは解かっているのかな~?

_ てらだ ― 2009/02/21 23:47

胡桃さん
コメント、ありがとうございます。
ほんとにそうですよね。
もっと言えば、さあこれから出産と思っていた矢先にがんが分かり、抗がん剤治療やホルモン治療の副作用で短期的・長期的に妊娠できなくなって悩んでいる人も山ほどいます。
このような道をえらんだ女性の物語が賛否両論を呼ぶだろうと考えていたのなら、なにもピンクリボンを掲げなくても良かったのにと、どうしても違和感を感じちゃいます。

_ みゆりん ― 2009/02/23 14:05

こんにちは。
映画余命の「トイレジャック」、この前「プライド」を観た時トイレに入ったら貼ってあり、見てしまいました!
予告篇すら、恐怖映画のように(見ちゃだめ、見ちゃだめ)と気をつけていたのに、おちおちオシッコもできん。

乳がん患者である前に女として「自分は死んでも子孫を残せてハッピーエンド」ものには疑問を感じます。

ピンクリボンを掲げるのならば、「適切な治療で、出産もできた」話ではだめなのでしょうか。

_ HH ― 2009/02/23 20:29

は~い 炎症性乳がんで~す

正確な情報もなく悲劇仕立てにするのはやめてほしいですね。
こちとら日々の買うんどダウンに戦々恐々としてる身ですもん。

どうもマスコミのやることは お涙ちょうだいの美談仕立て
ヒロインもヒーローもえらーくかっこいい俳優さんなんか持ってきてるけど
実際の患者(あたし)はデブだしばばぁだし根性曲がってるし
美辞麗句のイメージとはかけ離れてることをさらしたいもんですな。

いい加減に悲劇を面白がる手法はやめてほしい。
本当に悲劇をなくすためには事実を積み上げて、論理的に対応するしかないのに。


入院生活から復帰したとたん、また悪態付きたくなった
簡単にはお迎えが来そうにないバトラーでした(^^ヾ



主様、お手紙作戦お疲れ様でした
ありがとうございました。
ベッドに寝たきりでお手伝いもできずにすみませんでした。
気持ちだけ・・・お手伝いしてますんで、よろしく(^^;;

_ てらだ ― 2009/02/24 01:30

みゆりんさん
コメント、ありがとう。
おっ、ご覧になったんですね、トイレジャックの現物!

> ピンクリボンを掲げるのならば、「適切な治療で、出産もできた」話ではだめなのでしょうか。
うん、そういう話でピンクリボンなら、すんなり納得できそうなんですがねぇ。

_ てらだ ― 2009/02/24 01:57

HHさん
こんにちは。コメント、ありがとうございました!
そっか、炎症性乳がんでらっしゃるんですね……。現実にこうして同じ病名を告げられている患者がいるのだから、きちんとした医学的情報を提供してほしかったとつくづく思います。

> いい加減に悲劇を面白がる手法はやめてほしい。
> 本当に悲劇をなくすためには事実を積み上げて、論理的に対応するしかないのに。

おっしゃる通りだと思います。悲劇で涙をさそったところで、検診率があがるとも思えません。

手紙作戦へのお言葉も、ありがとうございます。たっぷりの応援をいただいて、どれだけ励みになっていることか。入院なさっていたご様子、まだまだ寒い日が続きますし、どうぞご自愛くださいね。

_ はる ― 2011/06/07 13:58

私も妊娠8ヶ月に炎症性乳癌の宣告うけ、すぐに帝王切開で赤ちゃんを産みスクスク育っています。映画は拝見してませんが…私はママがいない子供は可哀想な気がします。現在、抗がん剤治療をしてますが副作用もなく普通に暮らしてます!髪の毛は抜けてますが治療の為、生きるために少し我慢です。これからも「余命」は見ないかもしれませんが、コメント書かせて頂きました。

_ てらだ ― 2012/06/17 22:05

はるさん
コメント、ありがとうございました! なんと、書き込みいただいてから1年以上経ってしまっていました! 本当に申し訳ありません!
昨年の震災後、被災地の患者さん支援の活動を始めるなどして、こちらは完全放置になっていました。お許しください。

帝王切開で赤ちゃんをお産みになったとのこと、その後いかがお過ごしでしょうか。大変なこともたくさんあるでしょうが、それを補って余りあるほどの喜び、楽しみに包まれていらっしゃいますように・・・!

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